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friends are strangers

音楽とベースと酒と所沢

音楽青春漫画BECKとグミチョコを比較して思う事

十代の頃、僕もバンドを始めたばかりという事もあり夢中になって読んでいたバンド漫画がある。それがBECK「グミチョコレートパイン」(漫画版)の二つ。夢、進路、恋などに悩む若者をバンドを通し描いた傑作青春漫画。両作品とも映画化されていて、僕世代のバンドマンにとって青春時代を共に過ごしたバイブルだと思う。しかし大人になった今、ふと読み返す機会が多いのは後者の「グミチョコ」が多くて、BECKはさっぱり読まなくなってしまった。なんでなんだろうなぁと思いながらも半ば答えは出ているので、今日は両作品を比較しながら考えてみようと思う。

 

 まずBECKという作品。作者はハロルド作石主人公のコユキは退屈な毎日に飽き飽きしている冴えない中学生。そんなコユキは謎の天才ギタリスト竜介との出会いを通してギターにのめり込んでいく。その後竜介含む個性的なメンバーとバンドを結成し、様々な障害を乗り越えバンドマンとしても人としても成長していく。

 

グミ・チョコレート・パイン 1 (KCデラックス)

グミ・チョコレート・パイン 1 (KCデラックス)

 

 対するグミチョコだが、これは元々大槻ケンヂ作の半自伝的小説が原作。舞台は80年代、クラスでも孤立しオナニーばっかしている主人公ケンゾウは、自分は周りにない何かをもっているはずだとアングラな映画、小説、ロックを観たり聴いたりすることで自分を満たしていた。そんな彼はクラスのマドンナ山口美甘子との触れ合いの中少しずつ変わっていく。数少ない仲間とバンドを結成し、「同じ高校の奴らをアッと言わせてやりたい 」という目的を果たす為にバンドに打ち込んでいく。

 

二つの作品は「冴えない若者がバンドや音楽を通し成長していく青春物語 」という点で共通している。しかし読み進めていくと全く違った展開を見せていく。かなりグミチョコ寄りの記事になると思うけど、書いてみようと思う。

 

1.主人公のタイプ

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まずBECKコユキは、上記の通り冴えない中学生だ。彼は竜介に出会い音楽に目覚めていく訳だが、寝る間も惜しんでギターを練習した結果かなり上手くなる。この冴えない彼の成長していく様が良かったのだが、彼は実は凄まじい才能を持っていた。それが歌。一度彼の歌を聴けば街行く人もライバルバンドも、果ては世界トップクラスのモンスターバンドのメンバーでさえ驚愕するぶっ飛びチート歌唱力を持っている。努力もするし、神が与えた才能も持っているとんでも主人公がこのコユキである。

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対してグミチョコのケンゾウだが彼はルサンチマンの塊のような奴で、それを振り払う為に音楽映画小説なとのサブカルチャーにのめり込んでいる。しかし次第に「いつも心の中で周りをバカにしていて俺はお前らと違うと思っていたけど、本当に何も持ってないのは俺なんじゃないか。才能なんて何一つ無い空っぽの人間なんじゃないか」という事を考え始める。しかしそれを乗り越え、「 関係ねぇ!おれはやりたいんだ!才能無くたって、やりたい事やるんだ!」とギターを手にする。周りの奴らを見返す為に、憧れの人に近づく為に。才能溢れるコユキとはまた対照的な主人公と言えると思う。

 

2 女性関係

コユキは冴えないながらもそこそこ浮名を流す。あまり読み返してないから覚えてないのだけれど、憧れの先輩、竜助の妹(ヒロイン)、なんか突然現れたメガネっ娘なんかがいたと思う。竜助の妹の真帆に関しては早々に仲は深まり男女の仲に!!(少年マガジン

そしてケンゾー。彼はひどいもので女に全くモテない。その鬱屈を自作のエロ小説を書き発散する毎日だ。バンドを組んでそこそこ人気が出て来ても全くモテない。ヒロインである山口美甘子とは一時仲が深まるものの、物語中盤に訪れる唐突な別れシーン(ここが泣ける)以降二人は最後まで再会することは無かった。

 

3 バンドメンバー達

コユキのバンドは凄まじい個性派プレイヤー揃いだ。まずは天才ギタリストで、ルシールという弾痕だらけの謎のギターを使う竜助。黒人も引くほどのグルーヴを持つベースの平くん(ナンテ日本人離レシタファンキーナry)、同じ年だけど冷静沈着のドラマーさく、バンドのフロントマンでカリスマ抜群の千葉。もうオールスターじゃねえかって感じの凄い人たちなのである。

そしてケンゾー達のバンド「脳髄ダイヤ」(漫画版)だが、電気屋の倅でジャパメタ好きのタクオ、受験に悩むドラマーカワボン、突然発狂するボンボンベーシスト小田、作詞担当で切れるとカッターを振り回す山之上、、、と、とにかく冴えない。この学校ヒエラルキーの限りなく底辺のゴミ達が立ち上がったというのがこの作品の趣旨なのだから良いのだけれど、BECKに比べるとこの有様。

 

4.バンドのその後とまとめ

コユキ達のバンドは様々な障害にぶつかりながらも、おそらくフジロックがモデルのフェスグレイトフルサウンドで伝説のライブを成し遂げ、アメリカツアーにも出る。そこでも苦労しながら最終的に凄まじいライブを行い現地で歓迎を受ける。んで日本に帰り、、、、もう後は読んでいただいた方がいいかもしれない。僕はここらへんからもうあまり覚えていないが、最終的にとんでもない世界的バンドになった感じだった。

ケンゾー達は合宿したり山ごもりしながらバンドとして成長し、受験を控え空中分解になりそうだったバンドは山之上の説得で解散を免れる。最後はワンマンライブを敢行。今までバカにしていた高校の友人達は各々の人生と悩みを抱えながら彼らのライブハウスへと足を向けて行く。

 

ここまで読んでくれた方はわかると思うけれど、僕は途中からBECKを説明するのがかなり面倒くさくなって来ている。この両バンド漫画を比較して分かるとおもうけれど、BECKは完全なバンドシンデレラストーリーなのだ。最初冴えない男の成長物語として見ていると面白かったのだけれど、結局彼も才能ある選ばれし人間で、最終的にスターになってしまう。描き方としてそんな描写は無かったと思うけれど、最終巻辺りのコユキの顔を完全に自信に満ちあふれ物語当初のあの少年の面影は全く感じられなかった。成長したと言えばそうだしリアリティが無いと言っても「漫画なんだからいいじゃねーか!」と言う人もいるかもしれないけれど「ああ、、そのギターを始めたばかりの頃の夢中になる感じ、分かるよ!!」って想いで読み進めていた読者の共感をすっ飛ばし、あれよあれよとスター街道まっしぐらのコユキ(可愛い彼女もゲット!)には、もう僕は共感出来なくなっていった。

グミチョコはその点潔くて、ラストのワンマンライブを描いた後に日常に戻り、物語は完結する。冴えない男達は「もうあいつらを見返すとかさ、、いいじゃん!そんなの!音楽楽しもうよ!!だって楽しいじゃん!バンド!」と、最後のライブ前の緊張を振り払いステージに向かう。そしてそこにいたのはいままでバカにしていた同じ高校の同級生達(むっちゃ泣ける)。大槻ケンヂの半自伝的作品とはいえ、後日談などは語らず、彼らを等身大の80年代の高校生として描きって物語は終わる。こういった所が好きで、僕は同じバンドを題材にした青春漫画だけれどグミチョコをいまだに読み返す理由の一つだ。 とにかくグミチョコはヒロインとの話が泣けるし、胸に突き刺さる。青臭くて、独りよがりで。きっとヒロイン山口さんにとってケンゾーとの出会いは、大人になったらほとんど忘れてしまうような若い頃の思い出の一つにすぎない思う。でもケンゾーにとって山口さんは、これから何十年も心に残って行くだろうし、彼女の存在は確かにダメでダメでしょうがなかった彼を突き動かした大きな存在だった。この男女の違いとかも、、なんか生々しくってねえ。

 

僕も彼ら主人公と同じで、バンドばかりやって10代20代を経験し、来年は30の大台に乗ろうとしている。そんな年齢の僕がふとした時に手に取りたい漫画って、才能溢れる主人公のサクセスストーリーじゃなくて、どうしようもない奴らが足掻きながら何とか前に進もうとする漫画なんだろうなあ。

 

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グミチョコで最後に作詞担当のバンドメンバー山之上がメンバーをステージに送り出すシーン。大好きなシーンです